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舞台裏 Part.1 「第1回」 「「「「「「寮生対抗! 炒飯キング決定戦!!」」」」」」 突如開催されたかの様なこの対抗戦。実はお嬢様が充分に絡んでいます。 それはお嬢様が気紛れで炒飯を作り、寮生達に振舞った事から始まりました……。 ~回想開始~ 「美味しい…」 「何で?! 手順とか結構めちゃくちゃじゃなかった?」 「これは……やるべき?」 「うん。やるべきだと思う」 「彼女は味方に付いてくれるかな?」 「大丈夫。基本の性格が“ド”が付く程のSだから」 「じゃあ、決まり。明日から順番に家庭科室で調理ね。先生の許可は取るから」 「届けるのはどうするの?」 「私がお屋敷まで持って行くよ。それで彼女に渡す」 「うん。それでいいと思う」 「あの、みなさんで何をご相談なさっているの?」 「「「「「「何でもありませんよ。お嬢様(千聖)!」」」」」」 「??」 ~回想終了~ 寮生達だけで始まったはずのこの対抗戦がまさかあらぬ方向へ飛び火し、思わぬ結果を もたらす事になるとはまだ誰も…当然千聖お嬢様も知らないのでした。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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ソロリ ソロリ ソロリ ソロリ ソロリ ソロリ…… 草木も眠る丑三つ時。 私はなるべく物音を立てないように行動していた。 目的地に到着し忍の如く塀を越える。えっ? 何処かって? 共犯になる覚悟ある? ソロリ ソロリ ソロリ ソロリ ソロリ ソロリ…… ある場所に着くと壁伝えに垂れている紐を引っ張った。 かしゃんと音を立てて目の前に下ろされる縄梯子。繋がる先は……グフッ。 ソロリ ソロリ ソロリ ソロリ ソロリ ソロリ…… 様子を窺いながら見るその場所は私にとっての桃源郷。 数日の内にその場所を奪還することを窓越しに誓うと私はその場所を後にした。 ノk|+▼-▼)<手段は選ばない保全だカンナ 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 「いじめなんて絶対だめだよ!!!!!11」 窓ガラスを破らんばかりの熊井ちゃんの絶叫に、千聖と茉麻ちゃんがそろって仰け反った。 「あ、あのね、熊井ちゃ」 「まーさ!これは見過ごせない問題だよ!生徒会としても、それから悪を討伐するもぉ軍団としても、そんなならず者は許しちゃおけねえぜ。さっそく今日の昼にでも全校集会を」 ――あーあ、だから熊井ちゃんに話すのは後にしたほうがいいって言ったのに。 あの、宮本さんっていう下級生。 千聖の妹になりたがっていて(いや、なったのか?むかつくから聞いてないけど)、今朝も林道で待ち伏せていた。 しかも、なぜか初等部の校舎の道を曲がらないで、わざわざうちらの校舎に遠回りするという意味不明の行動をしていた。 千聖はその時は何も言わず、宮本さんを見送ってから、おもむろに私にこう言った。 “舞。私、かりんを助けてあげたいの” 千聖の考えだと、宮本さんは苛められているということらしい。 昨日、舞美ちゃんや愛理に話したのもそのことなんだろう。 すでに茉麻ちゃんにも相談済みらしく、授業の前に生徒会室でその話の続きをする約束で、一緒に来て欲しいといわれて着いていったら、そこには熊井ちゃんもいた。 「舎弟に配らせる、他校用もぉ軍団ポスターを作ってるんだよ」 くまくまスマイルでそんなことを言う熊井ちゃん。 出直せばよかったのに、なぜか千聖はそんな熊井ちゃんにまで、宮本さんの件を話し出した。 で、冒頭の熊井火山大噴火に至ったわけだ。 「・・・まあまあ、熊井ちゃんちょっと落ち着いて」 そのあまりの憤りっぷりにドン引きしながらも、茉麻ちゃんはすぐに気を取り直して熊井ちゃんを諌めた。 そして、すぐに千聖のほうへ向き直る。 「・・・あのさ、お嬢様。 昨日もその話をしてくれたけれど、どうしてお嬢様は、宮本さんがいじめられているって思ったの?」 「それは・・・えと・・・」 その問いかけに、千聖はすぐには答えなかった。 私みたいに口達者で頭が回るタイプじゃないから、本当に慎重に考えているんだろう。 他の子のことで頭がいっぱいな千聖なんて気に食わないけど・・・仕方ないな。 私は千聖の手を握って、口を開いた。 「・・・今朝、後ろから見て思ったんだけど、宮本さん、コート汚れてたね。っていうか、足跡みたいなのが着いてた」 千聖が息を呑んで私を見た。 「あんなに優等生っぽいのに、変な感じ。あとさ、前に舞とちしゃとが一緒にいる時、あの子話しかけてきたけどさ、何でスリッパ履いてたんだろうね。 初等部との連絡通路使えば、そのまま上履きで来れるのに。 それにさ・・・」 「かりんは、図書館で、授業で使う教科書を借りていたわ」 上ずった声で、千聖がようやく口を開いた。 「覚えてるかしら、茉麻さん」 「えっと・・・図書館でバッタリ会ったときかな?ゴメン、ずいぶん読書家だなとは思ってたんだけど、借りてる本までは・・・ ほら、あの時、かりんちゃんお嬢様に姉妹の申し出をしたじゃん?そっちのほうが衝撃的でさ」 「そう。 でも、千聖ははっきり見たのよ。かりんが抱えている本の中に、初等部の教科書が数冊含まれていたのを」 千聖は細く息を吐き出した。 「違う日には、体育があったわけでもないのに、なぜか髪や制服が濡れていた事もあったわ。 それにね、かりんはいくら聞いても、初等部のお友達のお話をしてくれなくて。去年もらっていた、かりんからのお手紙には、お友達のことがたくさん書いてあったのに、最近は全く書いていないの。 これでも、千聖の勘違いなのかしら。 ああ、でもそれなら、どんなに嬉しい事か。私の一人相撲に、皆さんを巻き込んでしまったのは申し訳ないけれど・・・」 生徒会室に、静寂が訪れた。 あの熊井ちゃんですら、口を閉ざして、何かを考え込んでいるみたいだった。 私も知っていることは全部話したし、あとは静観しようと決めた。 沈黙の中、感覚が無駄に研ぎ澄まされて、熊井ちゃんがポスターを書くのに使っていたマジックのシンナーのにおいが、やけにキツく鼻についた。 「・・・お嬢様」 しばらくして、茉麻ちゃんが席を立って、千聖の隣に座った。 そのまま、ゆっくりと千聖の体を抱きしめた。 「あ・・・」 一瞬硬直しかかった千聖の体は、茉麻ちゃんのポンポンと背中を叩く仕草によって、すぐに和らいだ。 「大丈夫。 もし仮に、お嬢様の勘違いだったとしても、誰も怒ったりなんかしないよ。・・・むしろ、勘違いだったって笑いたいよね。みんな、お嬢様と同じ気持ちだよ」 千聖の肩が、小刻みに震えるのがわかった。 ・・・ちょっと悔しいけれど、私はこんな言葉はかけてあげられない。 こんな風に、千聖の気持ちの何もかもを受け止めるなんてこと、茉麻ちゃんにしか出来ない。 だから、黙ってその背中を見つめた。 次に千聖が何かを求めたとき、すぐに応じられるように。 「・・・でも、うちちょっと気になったんだけどね」 すると、ずっと何かを考えていた熊井ちゃんが喋り始めた。 「舞ちゃんが、その、宮本さんっていう子のコートに踏んづけられたみたいな跡を見たのは、今朝なんだよね?」 「うん」 「んー。あと、お嬢様が、宮本さんの髪とか体が濡れているのを見たのは、初等部の校舎で?」 千聖は茉麻ちゃんの腕の中で、首を横に振った。 「そっか。じゃあ、こっち側の校舎で見かけたってことだよね」 ふーむ、と唸って、熊井ちゃんはまた思案顔。 「仮にコートを踏んづけちゃったとしても、そんな汚れなんて、すぐ取れるでしょ。 それに、髪や制服が濡れてたっていうのも何か・・・こっちの校舎に何か用事があったのなら、拭いたり拭ったりしてから来るんじゃない?宮本さんって、優等生タイプなら、余計そうすると思うんだけどな」 お、熊井ちゃんにしては鋭いじゃん。 でも考察できたのはそこまでで、また殺し屋みたいに鋭い目で、ぶつぶつと独り言を唱え始めてしまったから、私は言葉を引き継ぐ事にした。 「・・・まあ、仮にだよ?仮に、宮本さんが、誰かに嫌がらせを受けているとしてね」 「うん」 「いじめられた痕跡を見せることで、千聖に気がついて欲しかったんじゃないかなって、舞は思ったんだけど」 ――まあ、私だったら、100万倍エグい報復をしてやるパターンだけど、誰もがそうじゃないっていうのはさすがにわかっている。 「でね、そう考えると、宮本さんが純粋に千聖を慕っているのか、ちょっと疑わしい部分もあるよね」 「どうして?」 「ん、それは・・・」 少し言葉に詰まって、千聖を見る。 すると、私の考えを察したかのように、千聖はゆっくりと顔を上げた。 目とほっぺたは真っ赤になっているけれど、もう泣いてはいなかった。 そして、ほんの少し微笑すると、千聖は口を開いた。 「かりんは・・・私に、大きな権力があると期待して、助けを求めているだけなのかもしれない、って、舞は考えているのね。私の近くにいれば、とりあえずの安全は保証されるから」 私は大きくうなずいた。 千聖の深い瞳の前で、ごまかしなんてできるはずがない。 「・・・それで、舞ちゃんは、もしかりんちゃんがそういう動機でお嬢様と姉妹になったとしたら、どうするの?」 依然、子供を守るママみたいに千聖を抱きしめている茉麻ちゃんが、私にストレートな質問をぶつけてくる。 「そんなん、姉妹とやらをやめさせるに決まってるじゃん」 「おいおい」 「って言いたいところだけど・・・舞もそこまで外道じゃないでしゅから。 さっさと問題を早く解決させてからいろいろ考えるかな。ちしゃとを利用した報いとか・・・」 「・・・宮本さんは、そんな子じゃないよ」 「うおっ」 いきなり、頭上から声が降ってきて、私は思いっきり飛びのいた。 「・・・なっちゃん。いるならいるって言ってよ」 「キュフゥ・・・」 いつからそこにいたのか。 私の声にもろくすっぽ反応せず、なっちゃんは背中を丸めたまま、空いてる席に倒れこんだ。 「・・・てか、なっちゃん知ってるの?宮本さんのこと」 「もー、私、サイアク・・・。副会長の癖に・・・愛する学園の生徒をだよ?ほんっと、クソヤローだよ、私って・・・」 優等生らしからぬ、ものすごい自虐的な自問自答を繰り返すなっちゃん。何このコ、いきなり入ってきて。 なかさきちゃんはクソヤローなんかじゃないよ!とか言って、熊井ちゃんが“ウ○コとなかさきちゃんの違い”を解説しているのをニヤニヤ見ていたら、ツンツンと腕を突っつかれた。 「ん?」 「舞、ちょっと、一緒に来てくださるかしら」 千聖が2人分の鞄を持って、ドアのほうへ私を引っ張る。 「・・・ん、わかった」 わざわざ言われなくてもわかる。 行くんだろう、彼女のところへ。 まだホームルームまでは時間がある。今はちょうどいいタイミングだ。 茉麻ちゃんが“行っといで”とジェスチャーで私たちを促す。 「いい?なかさきちゃん。 長いものに巻かれないのがなかさきちゃん、長いモノは巻k」 「いわせねーよ!」 ――ま、あっちも強力なカンフル剤のおかげで、すぐに立ち直れそうだし、いっか。 私は少し汗ばんだ、千聖の小さな手を握りしめた。 次へ TOP
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翌日の午後、私はお父さんの車に揺られて、転校先の女子寮へやってきた。 「有原栞菜さんですか?お待ちしてました、どうぞこちらへ。・・・どうかされました?」 「あ・・・いえ、とても綺麗な建物なので、びっくりしてしまって。」 格安と聞いていたから、かなり質素なアパートみたいなのを想像していたけれど、まるで小さな洋館だ。 クリーム色の外壁に、鋭い三角形のこげ茶の屋根が2つ。大きな出窓と、ステンドグラスの小窓がたくさん散りばめられている。中央の大きな扉の向こうは、いったいどんな内装になっているのか想像もつかない。 女子寮なだけあって、外から中の様子が見えないように、建物全体が蔦の絡まるレンガの塀で囲われているのも新鮮だった。 「じゃあ、しっかりやるんだよ、栞菜。こまめに連絡するから」 荷物を車から出すと、お父さんはあわただしく引き返していった。どうやら飛行機の出発時間が迫っていたみたいだ。 あっという間に一人ぼっちになってしまった私は、急に寂しくなってきてしまった。 こんな、誰一人知ってる人のいない空間で、上手くやっていけるんだろうか。 「有原さん?それじゃ、ご案内しますね。荷物、持ちましょうか?」 「あ、大丈夫です。トランク一つなので。」 さっきは建物に気をとられていてあんまり意識していなかったけれど、私を出迎えてくれたのは、同い年ぐらいの女の子だった。 柔らかそうな黒髪に、優しげな印象の黒目がちな瞳。色白で、華奢で、品があって、まさに「女の子」という感じのその子は、顔をまじまじと見つめる私を興味深そうに見つめ返してきた。 「何か?」 「えっ!いやー、何か可愛いなあって思って。だって白いし、細くてお人形っぽいから」 気がついたら変なことを口走っていた。 ああーもう!やっちゃった。これじゃこの学校でもレズキャラにされちゃう。 私は可愛いとか綺麗な人が大好きだから、ついついストレートに口に出してしまう。 共学だったときはネタにされるぐらいで済んだけれど、ここは女子校。めったなことは言わないようにしよう。 「えー私が?そんな、いやだ。ケッケッケ」 そんな私の葛藤を知ってか知らずか、目の前の彼女はちょっとはにかんで、体をクネクネさせた。 変わった笑い方だな。リアクションも何か普通じゃない。完璧なお嬢様っぽく見えていたけれど、案外面白い子なのかもしれない。 「そうだ、自己紹介をしていませんでした。私、鈴木といいます。中等部の2年生なので、有原さんよりも一つ年下ですね。一応、環境委員長をやっています。」 「環境委員?」 「前の学校には、ありませんでしたか?有原さんのように転校してきた方を案内したり、普段は校内を見回って、不備がないかチェックしたりするのが仕事なんですが。」 「えーっと、多分美化委員かな?」 私と鈴木さんは、不思議と会話のテンポが合うみたいだ。彼女がクラスメートだったら、心強いのになあ。でも年下だから、あんまり交流は期待できないかも。せっかく仲良くなれそうなのに、残念。 「あ・・・じゃあ、中を案内しますね。鍵、開けるので先に入ってください。」 鈴木さんにドアをささえてもらってる間に、私はすばやく中へ入った。 「う・わー・・・」 ある程度予想していたとはいえ、そこはまるで異空間だった。 高級ホテルのように、深いワインレッドのじゅうたんが敷き詰められたエントランス。 だだっ広いそこには鎧や骨董品の壷、アンティークの人形なんかがガラスケースに収められ飾られている。 私みたいな庶民にも、これが超高額なコレクションであることは何となく理解できる。 2階まで吹き抜けの天井には大きなステンドグラスがはまっていて、午後の太陽を優しく遮りながらキラキラ光っている。 「有原さん?・・ごめんなさい、私部屋の鍵を持ってき忘れていました。管理塔すぐそこなので、ちょっと待っててもらえますか?」 「あ・・・はい」 私は上の空で、鈴木さんの話を聞き流してしまった。 こんなところで生活するなんてありえない。絶対なじめない。 早くもホームシックにかかってしまった私は、気をまぎらわすために少し探検をしてみることにした。 エントランスの正面には大きな階段、両脇にはそれぞれ大きなドアがある。 右側のドアを開けると、そこは食堂だった。いうまでもなく、テーブルや椅子はアンティーク仕様になっていた。奥には大きなキッチンも見える。 続いて左の端のドアを開ける。そこは庭への出入口になっていた。 私は外へ出て、キョロキョロ辺りを見回した。すると、寮のすぐ裏手に大きなレンガ造りの建物がそびえ立っているのがわかった。 「・・・学校と寮って、こんなに距離近いんだ・・・」 前に通っていた学校より1回りぐらい小さく見えるけれど、私立の女子校だから、こんなものなのかもしれない。 玄関を無視してこの庭への出入り口を使えば、5分もしないで学校に行けそうだ。 「あら、有原さん?」 玄関の方から、鈴木さんの声が聞こえた。 「あっごめんなさい!今行きます」 「ああ、庭を見ていたんですか。いいですよね、そこ。日向ぼっこにぴったり。私、休日はいつもそこで読書してるんです。」 「えっ・・・じゃあ鈴木さん、もしかしてここの」 「はい、私もこの寮に住んでます。」 「嘘ー!?良かった、私心細くて!でも鈴木さん一緒なの、すごく嬉しい!」 私は飛び上がらんばかりに喜んで、鈴木さんの両手を取った。 「愛理、って呼んで下さい。私も有・・・栞菜さんが来てくれて嬉しいです。よろしくお願いします。」 「私も栞菜でいいよ。」 一応私もそう申し出てみたけれど、愛理はあいまいに笑うだけだった。もしかしたら、上下関係に厳しい学校なのかもしれない。 「そうだ、愛理に聞きたいことがあるんだけど。」 「聞きたい事?」 2階へ上がる階段の途中で、私たちはまたおしゃべりを始めた。 「ここの学校の子なんだけど、チサトさんって知ってる?多分中等部だと思うんだけど、背がちっちゃくて、目は切れ長で、肌はどっちかっていうと色黒で、髪は肩ぐらいで・・・」 愛理の足が、ピタッと止まった。あっけにとられたような顔で、私を見ている。 「・・・どうして、千聖お嬢様のことを知ってるの?」 「え、あ、知り合いなの?良かった、実は・・・」 私は昨日の出来事を、愛理に話した。 「・・・そうだったんですか。だから、なっきぃはあんなに昨日怒って・・・」 「えと、愛理?」 「あ、細かいことは後で話しますけれど、さっき、中庭からレンガの大きな建物が見えたでしょう?」 「うん、学校でしょ?」 「学校?ううん、だってここは岡・・・千聖お嬢様のお家の敷地内だから。学校は、ここから10分ぐらい歩くの」 「てことは・・・」 私の背中を、冷や汗が滑り落ちた。 「あれは学校じゃなくて、千聖お嬢様のお屋敷なの。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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結果発表1 個性に富んだ……いや富み過ぎた炒飯キング決定戦は死し…(略)を出すこと無く無事に 閉幕する事となった。 さて、気になる結果はというと? 「開けますッ!!」 みんなが固唾を飲む中、舞美が折り畳まれた紙を広げていく。 そこに書かれていた日付と県名は…… 「ちょっとッ!? 真っ白なんだけどッ!!」 「「「「「「「「「「「「はぁ?!」」」」」」」」」」」」 結果を静かに待っていた十二人が疑問符と共に一斉に立ち上がる。 そのあまりの勢いにさすがの舞美も怯み恐る恐るといった感じでその紙の中をみんなの 方に向けた。 「ほんとだ。書いてない」 「舞美。紙を間違えて貰ってきたとか?」 「そ、そんな事あるわけないじゃん! それだったら向こうが間違えた可能性の方が 高いでしょ?」 「………みぃたん」 「何?」 「これ、お嬢様が愛用してるメモ帳で書いた手紙じゃない?」 「…あはっ。あははははっ」 テーブルの上に落ちていた綺麗に折られたメモ帳。 笑って誤魔化そうとする舞美に冷たい視線が集まる中、なっきぃはその手紙を読み始めた。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ お願い? 何だったっけ? 思い当たることが無く一瞬考えてしまったのだが、僕のその反応を見た舞ちゃんの眉間がピクピクと動いた。 と同時に舞ちゃんの目尻が釣りあがっていく 恐怖心が僕の脳を活性化したようだ。 思い出した。 熊井ちゃんがお嬢様に対しておかしな事をしないように注意して見張ってろと言われていたのだ。 「も、もちろん憶えていますとも。舞ちゃんのお願いを僕が忘れる訳が無いです。熊井ちゃんのことですよね」 「憶えてるんならさ、ちゃんとそれを実行しろよ」 舞ちゃんは眼光鋭く僕を睨みつけてきた。 抑揚の無い言い方が、よりいっそう恐ろしさを際立たせる。 その恐ろしさは、その、こういう表現はどうかとも思いますけど、ち○こが縮み上がるほどだった。 そんな目で見られるなんて、快感・・じゃなくて、極度の緊張感で体中の血液が逆流したように全身がざわついた。 「この前ちしゃとと熊井ちゃんが二人で出かけたんだってよ。そのとき何をやってたんでしゅか」 「なんで熊井ちゃんから目を離してたんだよ。使えないな本当に」 舞ちゃんからの叱責が続く。 これ、快感・・じゃなくて背筋を寒気が襲ってくる。 「あの日、帰ってきた千聖が舞に聞いてきたんだよ」 リ*・一・リ<大きな熊さんから聞いたのだけれど、「ほすとくらぶ」というのはどのようなクラブ活動なのかしら? 「うちの学園にはそのようなクラブは無いのね、なんて言ってるんだけど、これどうするの?」 僕より背の低い舞ちゃんなのに、僕にはそれが見下ろしてくるように感じられた。 その視線はそれはそれは冷たいものだった 「本当に熊井ちゃんのやることをちゃんと見ててくれてるのかな」 「いや、その、見てはいるんですけど、彼女のやることを止めるのはなかなか難しくて・・・」 「言い訳は不要。過程については言及してないから。求めてるのは結果だけ。 止めるのが難しいって分かってるんなら、その分の努力をするんでしゅね」 そうやって言うのは簡単なんですけどね、相手は熊井ちゃんなんですよ・・・ なんて思うけど、もちろん舞ちゃんの言うことに反論するようなことはできない。 舞様の言うことは絶対なのだ。でも、でも・・・・ 泣きそうな気分になってきた僕に、舞様が発言を補足するように言葉を続けた。それは意外な例えだった。 「例えば凄い選手がいて、そのシュートを止めるのが難しいのなら、その選手にシュートを打たせないように密着マークするのが基本なんでしょ」 なるほど! さすが天才舞様。考えが行き詰っていた僕にわかりやすく解説して下さるとは。 「なるほど、分かりやすいです! いや、舞ちゃん、サッカー詳しいんだね!」 「このところワールドカップ三昧のちしゃとに毎日つき合わされてるから、ってそんなのはいいから。言わんとすることはそういうこと」 舞様の今の解説は、僕には手を差し伸べてきてくれたように感じられた。 その言葉に僕は俄然士気が高まる。 「四六時中でも熊井ちゃんに張り付いて見張るぐらいのことはしろよ。わかった? わかったら返事!!」 「は、はいっ!!」 直立不動で返事をする。 いま僕は舞ちゃんから、熊井ちゃんとお嬢様がお出かけした時に何をやってたのかについて咎められた。 そうか、あの時、お嬢様は熊井ちゃんと一緒にお屋敷に帰ったんだもん。 舞ちゃんはお嬢様が熊井ちゃんと2人だけで出かけてたと思ってるんだな。 「あ、あの、舞ちゃん?」 「なんでしゅか?」 真顔の舞ちゃん。 馴れ合いは一切許さないというようなその表情。 こ、怖い。 どうやら、あの日熊井ちゃんと会うまでは僕がお嬢様と一緒だったこと、バレたりはしていないようだ。 僕がお嬢様と一緒にいたこと、しかも2人っきりで。 そんなこと舞ちゃんに知られたりしたらどうなってしまうんだろう。 ここは黙っていたほうがいいのかな。 でも、なんとなくそれは舞ちゃんに対して不誠実のような気がしてならない。 ここでそれを黙っていたりしたら、これから僕はずっと後ろめたい気持ちを抱えることになる。 だから、僕は舞ちゃんに向かって、こう言った。 「・・・実は、熊井ちゃんと会う前からお嬢様とご一緒してました。だから、その場には僕もいたんです」 「それで、熊井ちゃんのやることを止めることが出来ませんでした。能力不足でごめんなさい」 あえて感情を押さえ込んで余計なことを語らず、事実関係のみを淡々と舞ちゃんに述べる。 僕は覚悟を決めていた。 舞様に罵倒されるだろうということを。(それはそれでとても幸せだったり) ところが、舞ちゃんは僕のその告白を聞いても、それほど怒った様子にはならなかった。 それどころか、むしろ正直に告白した僕のことをちょっと見直すようなそぶりさえ見せてくれた。 生命の危機まで覚悟していた(暴力とかそれはそれでry)僕は、その反応に極度の緊張から開放される。 やはり人間正直が一番だ。 誠意を見せればきっとそれは通じるんだ。 そんな僕の告白に対して、軽く頷いたように見えた舞ちゃんが言う。 「うん、そういう正直な態度を取ったのは評価してあげてもいいでしゅね」 が、僕の告白を評価してくれたのは、それはほんの一瞬だけだった。 次の瞬間には舞様の表情に戻ってしまった舞ちゃん。 「でも、ちしゃとが一人なのをいい事に、店に引っ張り込んで一緒に食事とか、そんなの許されるとでも思ってんの? 俺の嫁と食べるそばは美味しかったでしゅか?この間男が」 何かすごく語弊のあるその表現・・・ (そうか、栞ちゃんの真似をしてるんですよね。間違いない) いや待って・・・ そば屋とか、何故それを・・・ 「ホームで電車を待ってる間も、ずっと見つめたりして。 俺 の 嫁 を 」 な、なんでそんなことまで・・・ 「ひとつ教えておいてあげる。人様の嫁と2人っきりで出かけるとか、そんなの社会通念上許されることじゃないから。それぐらい分かってるよね」 「まぁ、正直に打明けたことで今回は執行猶予にしておいてあげるけど」 そこで一旦言葉を切った舞様。真正面から僕を見据える。 「猶予は一回だけ。二度目は、無いから」 こ、怖い。本当に怖い。 でも、、この恐怖感を味わうのは久しぶりじゃないか。 舞ちゃんと向き合えたからこそ感じられるこの感覚。 それを感じられるのはとても幸せだなあと、ひきつった顔の裏でそんなことも思ったり。 固まってしまった僕を、舞ちゃんがまじまじと観察するように眺め回す。 その彼女の視線がある一点で止まった。 「そのカバン、ずいぶんと賑やかでしゅね」 彼女が言ってるのは、僕のカバンに付けてあるアクセサリー類のこと。 舞ちゃんとお揃いにしてるポッチャマの小さいぬいぐるみ。 前に道案内をして知り合ったお婆ちゃんから貰った学業成就のお守り。 そして、つい最近付けたのは、この黄門様の印籠のキーホルダー。 これはあの日、黄門展のグッズ売り場でお嬢様から頂いたもの。 お嬢様が水戸黄門好きだということぐらい、舞ちゃんが知らないはずがない。 その水戸黄門のグッズを僕が着けているということ。 これ、やっぱり舞ちゃんには分かっちゃったかもしれない。 お嬢様から頂いたものを僕が持っているんだ。 そんなの、舞様に没収されかねないことかもしれない。 だが、それにも関わらず舞ちゃんは、そんなことを言い出したりはしなかった。 舞ちゃん、僕がそれを持つことを許してくれるんですね。 やっぱり優しい女の子なんだ、舞ちゃんは。 僕のことを多少は認めてくれたからなのかな。 だとすれば、僕はその舞ちゃんの寛容さに対して、感謝の気持ちで一杯だ。 気持ちが昂った僕は、つい舞ちゃんに対して心のうちを真っ直ぐに伝えたくなってしまった。 思わず、こんなことを口走ってしまう。 「僕は舞ちゃんとお嬢様が仲良さそうにしているのを見るのが、一番好きなんだと気付いたんです」 言ってから気付いた。 唐突すぎるよね。何を言ってるんだ、僕は。 舞ちゃんがじっと僕の顔を見つめてくる。 心の底まで見抜こうとするような、その視線。 でも、僕は本心を言葉にしてるんだ。だからその視線で見られても、動揺することはなく言葉を続けられる。 「この気持ち。これは、本当なんです!」 舞ちゃんは言葉を挟んだりせず、黙って僕の言うことを聞いてくれた。 「お嬢様と一緒のときの舞ちゃんの楽しそうな笑顔を見るのが、僕は大好きなんです」 それは本当にそう思うんだ。 あの笑顔を引き出せるのはお嬢様しかいないんだから。 でも、いつかは僕だってきっと・・・ 「僕はちさまいのカップリングが一番好きだし、そして実際2人が一番のお似合いカップルだと思ってるんです。 ちさあいとかなきちさとか言う人もいますけど、やっぱり僕はちさまい最強論者のちさまい厨なので」 舞ちゃんは僕の言ったことをしっかりと聞いてくれた。 僕の言うことをこんなにしっかりと聞いてくれるなんて、嬉しかった。 そもそも学園の人たちって、揃いも揃って人の言うことをちゃんと聞かなさすぎでしょ。 人の話しをしっかり聞いてくれる学園の人は、お嬢様と舞ちゃんの2人だけと言ってもいいかもしれない。 まったく、どうなってるんだよry 閑話休題。 僕の言ったことをしっかりと聞いてくれた舞ちゃんは、僕に対してこう答えてくれた。 「ちしゃとと舞のことをそんなに思ってるなんて、なかなか見所がありましゅね。物事の本質を見抜く力をちゃんと持ってるんだ」 僕の言ったことに満更でもなさそうな顔の舞ちゃんが僕にそう言った。 「まぁ、これからもその気持ちを大切に持ち続けることでしゅね」 舞ちゃんが僕のことを認めてくれるようなそんなことを僕に言ってくれるのは嬉しかった。 でも、今のは自分で言い出したことではあるけれど。 だけど・・・ 舞ちゃん・・・ 僕の気持ちは分かってるんだよね・・・ それを分かってて、そんなことを僕に言うなんて・・・ 舞ちゃんは、残酷だな。 でも、さすが舞様だと思って。 そのような扱いを僕にしてくれることに嬉しさを感じるのもまた確かなのだ。 だって、中途半端な優しさで傷つけられたりしない分、僕はまた笑顔を求めて走り出すことが出来る。 これこそ、舞ちゃんの僕への愛情じゃないですか!(脳内) が、舞様の言葉はこれで終わりでは無かった。 次に舞様が言ったこと。 「これからもその姿勢を大切にしていれば、何かいいことがあるかもしれないでしゅよ」 ニコリともせずに舞様が言ったその言葉。 これはどういう意味だったんだろう。 いいこと、って、いったい何を意味しているんだろう。 「用事は済んだみたいだから、舞はこれで帰る。じゃあね」 「は、はい、さようなら。舞ちゃん。今日はありがとうございました」 去り際に僕の言ったことに軽く手を上げてくれた舞様、思い出したように振り返って言葉を付け加えた。 「あ、あと、あんまりなっちゃんをからかったりするなよ。ほどほどにねって、これは桃ちゃんにも言っておいて」 舞ちゃんの後ろ姿を僕はずっと見送っていた。 舞様の姿が見えなくなって、さっき舞様の言った謎かけのような言葉を改めて思い出す。 (何かいいことがあるかもしれないでしゅよ) それを僕は脳内で何度も再生してみるのだった。 次へ TOP
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前へ 「急いで病院へ向かって!!」 お嬢様のその言葉。 確かに急いで病院に行くべきだとは思う。 今はアドレナリンが出まくってるのか、まだほとんど痛みも感じていないけど。 神経が高ぶってるから妙にハイな気分にもなっている。 でも、これから患部が急激に腫れ上がってくるのは分かってるし、盛大な痛みも襲って来るだろうから。 だから、すぐに病院に行くべきというのは当然なんだけど、心残りがある。 それは、帰省してきている海夕音ちゃんに会えないということ。 そして、もうひとつ。 「プール! プールは!?」 「え? プール?」 「そうだよ熊井ちゃん。プールだよ!」 「なに言ってるの? それどころじゃないでしょ」 「プール!!」 彼女の言う通りだ。なにを言ってるんだろう。僕は・・・ 自分でもよく分からないけど、僕はいま変に興奮してしまっている。 だって、目の前まで迫っていたビッグイベントを目にすることが出来ないなんて・・・ これでお屋敷を後にしなければならないなんて、そんなのつらすぎるよ。 「まぁ、そんなにプールを楽しみにしていただいていたの?」 純粋なお嬢様が純粋な気持ちで僕の言葉を純粋に受け取ってくださった。 「はい(泣)」 「そうでしたか。でも、プールは今日だけでは無いですから、まだ機会もあるわ。今はとにかく病院へ急いで」 今のこの空気のお陰で、僕の言ったその言葉が持つ異常さは覆い隠されていた。 男子たる僕がお屋敷のプールに行こうとするなんて、そんなのどう考えても有り得ないことでしょう。 でも、誰も僕の言ったことを窘めなかったし、笑ったりする人もいなかった。 あぁ、今日あれだけ楽しみにしていたプールを見ることなくお屋敷を後にしなければならないとは。 お屋敷の建物を見上げて、思わずつぶやいてしまった。 「・・・・I shall return」 僕は必ず戻って来ます。 待ってて、舞ちゃん。 「ところでお嬢様、お屋敷に医務室があるっておっしゃってましたよね」 「えぇ」 「あの、そこに松葉杖があったら貸していただけませんか? 支えがないと、ちょっと立てないので・・・」 「すぐに持ってこさせますわ!」 門扉のインターフォンで連絡を取るお嬢様。 「千聖よ! 正門まで急いで松葉杖を持ってきて! あと、すぐに車を回すように伝えてちょうだい!!」 用件だけを口早に話すお嬢様のその言葉だけで通じるところに、このお屋敷のスタッフの優秀さが分かる。 さすが、岡井家。隅々までレベルが高い。 お嬢様が連絡をすると、驚くほどすぐ一人のメイドさんが姿を現した。 あの村上さんというメイドさんだ。 その手に、お嬢様が頼まれた松葉杖を持ってやってきてくれた。 あと、何故か首から船長さんの持っているような大きい双眼鏡を下げている。 やってきた村上さんにお嬢様が早口で切り出した。 「めぐ!ももちゃんさんが・・・・ケガをされてしまったの」 「えぇ、そのようですね。一部始終見てましたから。それで急ぎ仰せの物を持って馳せ参じました」 お嬢様の急いた口調と対照的に、落ち着いたその村上さんの口調。 なんで双眼鏡を下げてるのかと思ったが、なるほどその双眼鏡で千聖お嬢様を遠目から見守っていたんだな。 おおかた熊対策か。 もちろん、それはメイドとしての職務で、門前のお嬢様周りの監視をしていたんだろう。 (双眼鏡を使った覗きとか、そんなの有原じゃあるまいし) 「はいお嬢様、松葉杖」 村上さんが持ってきた松葉杖を手にお嬢様に語りかける。 「これ私が使ってたやつなんですよ。再び役に立つ日が来るとはね」 その松葉杖に特別の思い入れでもあるのか、村上さんはその松葉杖を見る目は何かを語っているようだった。 「めぐ、大丈夫かしら。大丈夫よね」 「それは分からないですよ。ちゃんとお医者さんに診察してもらわないと、何とも」 動転するお嬢様に、村上さんは落ち着いた口調で受け答えする。 引きつった顔の皆さんと対照的に微笑を浮かべた村上さんが僕に声をかけてくれた。 「あー、やっちゃいましたか。膝、ですか?」 「えぇ。古傷のところで」 「歩けます?」 「松葉杖を借りれば何とか」 そのサバサバとした言葉。 体育会系の人なんだな、村上さんは。 でも、それが僕の気持ちを落ち着かせてくれる。 僕も体育会系の中で過ごしてきたから、余計な気を使わないその空気の方がやりやすさを感じるんだ。 この状況で冷静に対応してくれる彼女のその言葉が、今はとてもありがたかった。 だって、まわりの3人の気を動転させていることに対して、僕は申し訳ない気分で一杯だったから。 たぶん彼女は、僕を含め動揺している人達を落ち着かせるために、わざとこのように振舞ってくれたんだろう。 「はい、タオルをお持ちしましたから。これで汗を拭いて」 「めぐ・・・」 「まぁまぁ、まずは落ち着こう」 村上さんが汗だくのお姉ちゃんに柔らかそうなタオルを渡す。 用意周到なメイドさん。さすがプロ。 お嬢様に急かされてここへやって来たはずだが、現場の状況をここまで把握しきっているとは。 「はい、熊井さんも。その姿、もうプールに入ってきたの?とかいってw」 「ありがとう」 真剣な顔つきだから怖い表情みたいになってしまっている熊井ちゃんだったが、メイドさんにそう声を掛けられたことでそのお顔がちょっと緩んだ。 状況を即座に把握して、的確な判断のもと冷静かつ迅速な行動に繋げること。 なるほど、この人はここ一番で頼りになるような人なんだろうな。 つばさ君が言っていた通りだ。 (つえーメイドな、あいつ本当にすげーんだぜ!)って。 ほどなくすると、黒塗りの車がやって来た。 すごい! リムジンだ。 こんな高級車に乗るのなんて、僕は初めてだよ。 門の前で停車すると、村上さんがすぐにドアを開けてくれた。 お嬢様に促されて、後部座席に乗り込ませてもらう。 すると反対側のドアから、お嬢様と熊井ちゃんが乗り込んできて僕の隣りに座った。 助手席にはお姉ちゃんも乗り込む。 って、何でこんなに皆でついて来るんだよ。(でも、これは嬉しい) 次へ TOP
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九日目。 トンッ。 目の前に置かれた夕食を見て、私は夕食を置いた張本人を見る事なく溜め息を吐きました。 中華スープとれんげが置かれた時点でもう分かり切っているもの……。 「……………」 「……………」 「め…村上さん」 「何でしょうか? 千聖お嬢様」 「今日はどちらの名産品なの?」 「今日は『埼玉のチャーハン』です。お下げしますか?」 「……いいえ、食べるわ。味付けに使用した調味料はご存知?」 「和風だし、醤油、酒、七味唐辛子。和風の味付けにしたと伺っています。」 「和風……というより大人向けの味付けの様な気がするわ」 「私は親父向けの味付けの様な気がしますが……」 め…村上さんの対応を軽く流しながら私は『埼玉のチャーハン』を頂く事にしました。 七味唐辛子がいいアクセントになっているのね。 (何故かしら? 一瞬、するめいかを食べている雅さんの顔が浮かんだ様な気が……) ノノl∂_∂ ル<誰が親父臭いって? おつまみ系好きなんだからしょうがないじゃん! 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「パーティーの後、千聖以外の家族・・・旦那様たちは、仕事が押しているとかで、ここには立ち寄らずにまた出張に出られてしまって。最初は日帰りのつもりでここに立ち寄ったんですが、結局こうして住まわせてもらって、今に至ります。 両親も驚いてはいましたが、ずっと家に引きこもっているよりは、環境を変えてみるのはいいかもしれないと賛成してくれて。何より、お嬢様からかなりの説得があったみたいなんですけれど」 「なるほど・・」 「長くなっちゃった。ごめんなさいね」 舞波さんは大きく伸びをすると、ブランケットから這い出して、「お茶、入れてきます」と部屋を出て行った。 手持ち無沙汰になった私は、とりあえずケータイを取り出して、いつのまにか地元の友達から来ていたとりとめのないメールに目を通した。 返事でも打とうかなと思ったけれど、あんまり気分が乗らない。あれだけ衝撃的な話を聞いた後、いきなりのほほんとした気持ちになるのは難しい。 「・・・ちっちゃいなぁ、私。」 ため息とともに、自分らしくもない独り言が漏れた。 イジメや不登校は、小・中学校の頃に、よそのクラスの話として聞いたことはあった。 だけど私はこういう性格だからターゲットにはならなかったし、不思議とそういうことが起こりにくい学級にいたから、ピンとこなかった。 正直、いじめられるのは立ち向かわないから、不登校は甘えてるからなんじゃないかって意識を持っていた。 でも、舞波さんのように、人を傷つけない代わりに自分を傷つけて、結果的に動けなくなってしまう人もいる。それを弱さとは呼べない気がする。 大体、みんながみんな私のような直情型の性格だったら、毎日血みどろのバトルでそれこそあっという間に学級崩壊になるだろう。 自分の境遇のことにしたってそうだ。 私はたしかに、大きな挫折を一気にいくつも味わって、どん底の気分を味わっていた。 でも、私にはこうしてつながりを切らないでいてくれる友達がたくさんいる。こじれているものの、何かあれば助けてもらえる距離に、両親がいる。 この仕事だって、自分で望んでお母さんも支援してくれた。・・・全然、恵まれてるじゃん。 「・・・お待たせ、めぐさん。ジャスミンティーでいいかな?」 「あ・・・ありがとう」 とりとめないことを延々考えていると、舞波さんがお盆を持って戻ってきた。 「今日はこの後、就寝までに予定あります?」 「えーと、特にはないですけど・・・」 「それじゃ、お茶飲んだらお風呂入りに行きませんか?メイドは共同浴場なんですけど、この時間なら貸切状態ですよ。」 「・・・そうですね。じゃあ、準備するんで」 直前にあんなヘビーな話をしていた人とは思えないような、とても落ち着いた振舞い。むしろ、私のほうが動揺しているみたいだ。 「お風呂の時、中学校の話とか聞かせてもらえますか?一度も通っていないから、部活の話とか授業の話も聞いてみたいです」 「もちろん。・・・舞波さんも、いろいろ教えてくださいね。胸がおっきくなる秘訣とか」 「やーだ、めぐさんたら。ウフフ」 ――こんな話、してる場合じゃないと思うんだけどな。 目を合わせて笑いあいつつ、私は小骨がひっかかったような違和感をいつまでも拭い去れないでいた。 翌日。 朝食を取り終えた私は、まっすぐ3階のお嬢様のお部屋へ向かった。 「お嬢様、村上です。今、よろしいでしょうか。ちょっとお話が」 「あら・・・大丈夫よ、入って。」 昨日あれだけやりあった後だ。少しはしおらしいところを見せようと、鏡の前で練習した“貞淑で清楚なメイドスマイル”を浮かべつつ、そっとドアを開けた。 「おはようございます、村上さん。」 「あ、ど、どうも」 部屋の中には、お嬢様だけじゃなく、数日前に顔を合わせた舞美さんが一緒にいた。汗びっちょりな自分のことはさておいて、舞美さんはお嬢様の小さな頭をタオルで優しく撫でつけていた。 「ランニングに行ってきたのよ。楽しかったわ」 「村上さんも今度、一緒にどうですか?とかいってw」 「・・・いや、遠慮させていただきます。」 朝っぱらから好き好んで走るなんて、ちょっと考えられん。中学のテニス部の朝練でさえだれていた私をみくびらないでほしいものだ。 2人は会話は少ないものの、さわやかに微笑みあったりしていい感じだ。こんな和やかな空気の中に、今から自分が爆弾をぶちこむのかと思うと、少々気が滅入る。 「村上さん、それで、お話というのは?」 「あ・・はい、ええと」 今、話してもいいものか。舞美さんの方をチラッと伺うと、「あ、私は大丈夫ですよ。」なんて言われてしまった。いや、そうじゃなくて。 「昨日の、舞波さんの件かしら?でしたら、舞美さんもある程度はご存知だから平気よ」 「そう、ですか。」 どうやら、私が心を入れ替えて“協力します”と言うものだと思っているらしい。お嬢様はまったく曇りのない子犬みたいな瞳で、私の返答を待っているようだった。 「私なりに、よく考えて出した結論です。・・・・私は、舞波さんを引き止めることはできません。昨日、舞波さんとお話して、私はむしろ、舞波さんの決断を支持したいと。そう思っています」 瞳が見開かれて、信じられないものを見るかのような視線を私にぶつけてくる。 「どうして・・・」 掠れた声が、心に引っかかって痛い。だけど、ここでこの話を終わらせることはできないことぐらい、わかっている。 「私が、舞波さんのことを好きだからです。舞波さんとはまだほんの少ししか接していませんが、とても誠実で、優しい方だと感じました。お嬢様が舞波さんのことを、お傍に置いておきたいと願う気持ちもよくわかります。」 口を挟もうとするお嬢様をさえぎるように、私は夢中でしゃべった。舞美さんの手が、震えるお嬢様の肩に添えられた。 「そんな思いやりのある方が、大好きなお嬢様を置いて、ここを去られるというのは、生半可な覚悟ではないと思うんです。どうして出て行くのか、その理由まではわかりませんが・・・それでも私は、舞波さんを応援したいです。だからお嬢様も」 「もう、いいわ」 「聞いてください、お嬢様」 「やめて。わかったから。お願い、もうやめて」 それは昨日、私と激しくやりあった人物とは思えないほど、弱弱しくて儚い声で、私は思わず口ごもってしまった。 「あ、あの・・・な、なんか、飲みもみっものとか!持ってきいぃましょうか!」 押し黙ってしまった私達を気遣ってくれているのか、舞美さんが激しく噛みながら、この場に似つかわしくないようなテンションの高い声を出した。 「・・・舞美さん、ありがとう。私、大丈夫ですから。学校に遅れてしまうわ、寮にお戻りになって。」 「お嬢様・・・」 「ごめんなさい。一人にして」 お嬢様は抑揚のない声で独り言のようにそう呟くと、ふらふらした足取りで踵を返した。そのまま、胎児みたいな体勢でベッドに潜り込んで、もうピクリとも動かなかった。 ――どうしよう、傷つけてしまった。 自分の言ったこと、考えたことが間違っているとは思わない。だけど、もっと他に、柔らかい言い方というものがあったかもしれない・・・ 「村上さん」 どうしようもなくて立ち尽くす私を、舞美さんが目線で促した。対処方法がわからないから、ここはひとまず引き下がろう。 「失礼いたしました」 「・・・・」 そっとドアを閉めた瞬間、お嬢様のしゃくりあげるような声が聞こえた気がした。 「・・・あの、多分、大丈夫ですよ」 「え?」 「お嬢様、たまーにお部屋に閉じこもってしまうことがあるみたいですけど・・・気が済んだら元に戻りますから」 舞美さんは寮に、私はメイドルームに戻る途中、ずっと無言だった舞美さんは、唐突にそうしゃべりだした。 「そう、かな」 「何か、あの、あんまりくわしいお話の内容はわからなかったけど、村上さんの言ってることが変だとは思わなかったし。 舞波さんはいい人だから、お嬢様が寂しがるのはわかるけど・・・・私も、お嬢様のこと、好きなんだけどな。愛理や村上さんもいるし、一人ぼっちになるわけじゃないのにな」 「舞美さん・・うん、そうだよね。私も、それを伝えたかったんだけど、言いそびれてしまった。」 「難しいねぇ」 舞美さんは少し寂しそうに笑いながら、「じゃあ、私はここで」と軽く手を振って走っていった。さわやかで、迷いがないその姿勢に、私は勇気付けられて、少しだけ元気を取り戻すことができた。 もう一度、舞波さんとゆっくり話そう。 決意を新たに、私は前を向いて歩き出した。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ いつも寮生の方々が歩いてくる林道の、その入り口。 気がつくと、いつの間にかまたここに来ていた。 そして、そこに足を踏み入れる。 そうせずにはいられない何か焦燥感にも似た気持ちが僕を動かしたのだろうか。 あれ以来、どうしても気になって仕方が無い。 この奥には、引き付けられてしまう何かを感じる不思議な場所があるのだ。 その場所を知ったのは、僕が初めてこの林道に入り込んだついこの間のこと。 その時の出来事が忘れられない。 あれは奇妙な体験だった。 * * * * この間、お姉ちゃんの後ろ姿を見送った場所。いま僕はそこに立っていた。 あの後ろ姿が忘れられなくて・・・ お姉ちゃんの面影を追いかけるように、林道に吸い込まれた。 この林道の奥には何があるのだろう。ずっと気になっていた。 関係者以外に歩いている人もいないし、何となく入って行きにくい雰囲気が漂っているその林道。 だから、今までそこに足を踏み入れるのは躊躇われていた。 が、今日は好奇心がそれに勝った。 寮生の方たちを意識するまで、そう遠くない近所にこんな道があることを全く知らなかった。 うっそうとした木立の中はとても静かで心が落ち着く。 この道を舞ちゃんと並んで歩きたいな。 静かなこの木々の中を僕と舞ちゃんは並んで歩く。そんな2人は会話なんかしなくても、きっと心が通じ合っているんだ。 だから、僕が舞ちゃんを見たとき、舞ちゃんも見上げるようにして僕に顔を向けてくれる。 そして、そこで立ち止まった2人の顔が近づいて(ry 妄想を全開にして歩いていたら、いつのまにかだいぶ進んでいたようだ。 そして、その時に気付いたのだが、周りの雰囲気がちょっと変わっていた。 程なくして現れたのは、古いお屋敷だった。 こんなところにこんな立派なお屋敷があるなんて。 凄い立派なお屋敷だな。まるで西洋の古城のようだ。 こんな凄い所に住んでいるのは、一体どんな人なのだろう。 垣根越しに中を覗いてみようとするが、ちょっと無理のようだ。見えにくい。 あまり人気も感じない静かな空間だから、誰かがいるなんて思わなかった。 「そこの君・・・」 ・・・うわ、びっくりした!! 急に現れて僕に声を掛けた人物。 その姿を見たとき、唖然としてしまった。今まで、こんな人、というかこんな職業の人を見たことなど僕にはなかったから。 黒い燕尾服のこの人、一目でわかるその職業、これは執事ってやつだ。きっと、この人はこのお屋敷の人なのだろう。 執事なんて職業の人は初めて見た。本当にいるんだな。 でも執事さんって、もっとこう白髪に口ヒゲを生やしてるような、そんな年配の人のイメージなんだけどな。 ところが、今目の前にいるのは僕よりちょっと年上ぐらいの、そう、いつぞやの桃ヲタどもと同年代かもうちょっと上かな、それぐらいの若い人だった。 メガネを掛けていて、そのせいか知的に見えないことも無い。 執事という仕事をしているぐらいだから物静かで理性的な人なのだろうが、今この人が持っているものはとても剣呑なものだった。 その手に、警棒のようなものを持って出てきたところを見ると、僕は不審者と見られてるんだ。これはまずい・・・ そんな物騒な得物を持って、僕を威圧するように立っている執事さん。 これは面倒なことになるのかと、一瞬顔がこわばった。 でも、目の前の相手はまだ話しを聞いてくれそうに見える(なかさきちゃんや熊ryとの比較的な意味で)。 うん、心配ない。話せばきっと分かってもらえる。 ところが、そんな緊張した雰囲気は思いがけず弛緩するのだった。他でもないその執事さん自身によって。 「・・・何か、御用でしょうかァ?」 その裏返った声。 自分の発言に自分で凹んでいる執事さん。 いきなり飛び出してきて、ドヤ顔で問いかけてきて、一人で勝手に凹んでいる・・・・ ・・・ひょっとして、あまり関わらない方がいいタイプの人なんだろうか。 そうも思ったんだけど、僕を不審者か何かと思ってるんだから、僕から勝手に立ち去るわけにもいかない。 その辺は誤解をはっきりと解いておきたいから。 でもこの人、ちょっと変な人なのかもしれないし、あまり刺激しない方がいいのだろうか。 取りあえずここは下手に出ておいた方がいいのかな。 「大丈夫ですか?」 「お気遣いなく。それより・・・」 こういうときは先手必勝だ。 いろいろ問いただそうと思ってる相手に対しては、どうしても受身になりがちだけど、あらぬ誤解が生じるのはそういう時なのだから。 だから、聞かれる前にこっちからコミュニケーションを取ることが、結局トラブルを回避する早道なのだ。 執事さんは僕の言うことをキチンと聞いてくれた。 よかった、決して危ない人なんかじゃなかった。 それどころか人当たりも良く、至って普通の常識的な人のようだ(栞菜ちゃんや熊ryとの比較的な意味で)。 ひととおり事情を説明すると、納得して貰えたのか、執事さんの口調も柔らかくなる。 やっぱり執事なんていう職業の人だけあって、なかなか聞き上手な人だ。 嘘のつけなさそうな裏表の無い人っぽいから、僕も安心して話しをすることができる(桃子さんや熊ryとの比較的な意味で)。 緊張を解いてくれたのか、執事さんも僕にフランクに接してくれた。 次々と教えてもらったお屋敷のいろいろなことは、僕にとって新鮮なことばかりだった。 僕の話しに対しても、この人の良さそうな執事さんが丁寧に聞いてくれるから、つい調子に乗って聞かれてもいない舞ちゃんのことまで話してしまった。 話しを真っ直ぐに聞いてもらえるって、気持ちのいいことですね。余計な気を使わずに話しができるなんて、ねぇ桃子さry だから、僕はこの年長の人の意見を求めてみたくなった。 「彼女ともっと仲良くなりたいと思ってるんですけど、この先どうすればいいと思います?」 執事さんは自分の経験を思い返すように考え込むと、すぐにいくつかのアドバイスを僕にくれた。 経験の無い僕に比べると、さすがに年長者なだけあって人生経験は豊富なようだ。 馴れ馴れしく話しかけまくればとか、頭をぽんぽん撫でてみろとか、男なんだから強引に迫ってみなよ、みたいなことを言ってくる。 そうやって、すぐにいくつも具体例が出てくるなんて。この人、意外と女性の扱いというものに長けているようだ。 具体的な経験に基づいてるのかな。だとしたら、何か羨ましい話しだな。 でも、いくつかアドバイスを頂いたけど・・・ うーん、舞ちゃん相手にどれも成功するイメージが浮かんでこない。 でも、舞ちゃんの頭をポンポンか・・・やってみたいな、それ。腕をもがれるのを覚悟の上で。 執事さんを相手にして舞ちゃんの話しをすること、それはとても楽しかった。 ただ舞ちゃんの話しをするだけでこんなに楽しいなんて。 それは、この執事さんが僕の舞ちゃんの話しを、煽りとか無しの真摯な態度で聞いてくれているからだ。 普段はその話しをするようなときは、いつも僕の目の前には、桃子さんや桃子さんや桃子さんや熊井ちゃんがいて、そのために楽しいイメージがちっとも思い浮かばないのだ。 なんか、とても楽しく会話をすることが出来た。 でも考えてみれば、この人いま仕事中なんじゃないのかな。 不審者がいるからって飛び出してきて、よりによってその対象とずっとお喋りなどしてていいんだろうか。 ご主人様に怒られてしまうのでは。他人事ながら心配になる。 それに、僕ももうあのカフェに向かわないと。 席を取っておかないと怒られちゃうんですよ、あの人達に。 こんなお屋敷の執事さんには想像も出来ないでしょうけど、世の中は上品で穏やかな人達ばかりという訳じゃないんですよ。 あの人達は、僕をこきつかうのを当たり前のように思っている本当にひどい人達なんだから。 同い年の彼女は俺王様だから僕の都合なんかお構いなし、日々の無茶振りにはもう本当に嫌になっちゃいますよ。そりゃ確かにとてつもない美人だけど。 それに負けず劣らずの先輩もいるから。むしろこの人の方が、何をしてくるのか読めない分、僕に多大のストレスを与えてくれているわけで。 この2人に振り回されて、僕の毎日はもう滅茶苦茶なんですよ。まったく、困っちゃうんですよねー。 僕の話しを聞いた執事さんの顔がちょっと強張った。 どうやら同情して貰えたようですね、僕の置かれている悲惨な状況に。 お世話になりました執事さん。お話しとても楽しかったです。 じゃあ僕はこれで。 ふと、気になって振り返る。 「しかし・・・本当に、日本にも執事さんって存在するんですね 「・・・職業体験も出来ますので、機会があればどうぞ」 ふーん、そんなのがあるんだ。それはちょっと面白そうだな。 カフェに着いたら、そこには既にもぉ軍団の人が来ていた。 いつもの席にどっかりと座っていたのは、熊井ちゃんだった。腕組みなんかしちゃって。 「遅い! どこ行ってた!!」 普段は平気で僕を放置するくせに、こういうときだけよくもまあ臆面もなくそんなセリフが言えるもんだ。 でもその時、僕は心が潤ったことで余裕が出来ていたのかもしれない。 僕の知らなかった面白そうな世界の人と知り合うことが出来たのだから。 だから、理不尽な熊井ちゃんに反論するよりも、今はその話しを聞いて貰いたくてしょうがなかった。 「待たせちゃった? ごめん、ごめん。ちょっと面白いことがあって」 「なにそれ」 「熊井ちゃん、本物の執事さんって見たことある?」 * * * * 面白い人だったな。 そんな先日のことを思い返しながら、林道を歩いていく。 もう街の喧騒も全く聞こえてこない。 物音のない静かなこの道、ただ僕の踏みしめる枯葉の乾いた音だけが聞こえてくる。 もう少し歩けば現れるはず。 あの時のお屋敷が。 しばらく経つと、熊井ちゃんが珍しくしみじみとした口調で話し始める。 「いよいよ卒業式なんだよねー。ももも卒業かぁ」 やっぱり来たよ、卒業式の話し。 お姉ちゃんのあの話しはやっぱりもぉ軍団の仕組んだ罠だったのだ。睨んだとおりだ。 でもそんなそぶりは一切見せず、僕はそ知らぬ顔で熊井ちゃんに返答する。 「へぇー、卒業式なんだ? 熊井ちゃんも出席するの?」 「うん、出るよー!」 「じゃあさ、僕からの伝言をお願いしたいんだけど、桃子さんにおめでとうって伝えておいてくれる?」 「ダメだよ。そういうことは自分で言わなきゃー。伝言じゃ気持ちが伝わらないでしょ」 ほら来た。僕を式に来させようとして、熊井ちゃんそうやって誘導するわけだ。 熊井ちゃんにしては結構うまい誘導じゃないか。 何も知らなければコロっと騙されていたかも。 でも、今の熊井ちゃんのマジレスはちょっとグッと来てしまった。 やっぱり卒業って聞くとしみじみとした気分になってしまうのだ。 さっき言った、桃子さんにお祝いの気持ちをちゃんと伝えたいなあ、という気持ちがあるのもまた事実なわけで。 熊井ちゃんがそれを意図しての発言だったのかは分からないけれど、僕は気持ちがだいぶ傾きそうになっていた。 僕は本当にノコノコと卒業式に向かっていたかもしれない。熊井ちゃんの、この後の一連の発言が無ければ・・・ 「でも、そうか。外部の人が卒業式に出席するには紹介状がいるんだよね。なかさきちゃんが言ってた」 なんだ、紹介状とか必要なのか。それじゃあ僕なんか元から無理なんじゃん。 実は、お姉ちゃんの晴れ姿はやっぱり見ておきたいなあと思って、出待ちとかしてこっそり見ようかな、などと思っていたのだ。 それなのに、紹介状が必要とか。つまり警備が厳重ってことだろうから、付近をうろつくのも厳しそうだ。 さすが名門女子校の卒業式。 こりゃ僕の出る幕など全く無いってことだ。 でも、それできっぱりあきらめがついた。紹介状が無いなら式には出られない。 逆にスッキリとした気分になった僕に、熊井ちゃんはこんなことを言い出した。 「でも、どうしても式に出たいんなら、うちが紹介状ぐらい作ってあげるけど?」 「どういうこと? 作るって、熊井ちゃんがそういうのを発行する係なの」 「違うよ」 ニッコリとした顔の熊井ちゃん、明るい声で続ける。 「偽造するに決まってるじゃん、もちろん。 そんなのうちの手にかかればチョロいもんだぜ」 ・・・・ 熊井ちゃん 文書の偽造は犯罪行為だよ・・・ きっと熊井ちゃんが偽造した紹介状なんか、正門のチェックで一発で見破られるシロモノなんだろう。 そしてその場で変質者認定され風紀委員の人に確保連行される僕。そんなところを寮生の人達に見られでもしたら・・・ 地獄絵図が頭をよぎる。 「熊井ちゃん・・・ 僕は学校の授業があるから、卒業式に出席することは断腸の思いであきらめます。本当に残念だけど」 「なんだよー。学校優先とかつまんない奴だー!!」 本当に申し訳ありません。 桃子さん、やっぱり直接お伝えすることは出来なさそうなので、心の中でお祝いさせていただきます。 ご卒業、本当におめでとうございます!! 次へ TOP